戻る
電子励起AES(オージェ電子分光)スペクトルは大きな二次電子上に微細なピークが重畳するため,最近の装置ではダイレクトピークを数値微分してピーク位置や強度を求めます.しかし,本来のAuger遷移に基づくピーク強度はダイレクトピークの面積であるはずで,その面積の求め方にどのような方法がありますか?
AESに関する教科書[1]では,Sickafus法[2]で二次電子成分を除去した後に直線法,またはShirley法[3]でピーク面積を求める方法を勧めています.Sickafus法を適用するためにはある程度広範囲のスペクトルが必要であるため,狭範囲スペクトルをShirley法のみで検討した報告[4]があるので紹介します.
図 Si KLLダイレクトピークからShirley法でバックグラウンドを除去した様子.
(a) ダイレクトピーク,(b) 微分ピーク,(c) 主ピークとバックグラウンド,
(d) バックグラウンド除去した主ピーク,(e) 比較のためのX線励起Si KLLピーク.
Si KLLオージェスペクトルを例に示します.(a)はCMA型AES装置で測定した運動エネルギー範囲1580 - 1640 eVのダイレクトスペクトル.(b)は(a)の微分スペクトルで局所最大・最小値は各々運動エネルギー1612 eV・1621 eV、中間点は1616.5 eVに相当します.(b)内の矢印は、中間点の両側の27 eV (1603 - 1630 eV)の距離を示しています。(c)にはエネルギー範囲±1.5Δ (Δ: 1621 - 1612 = 9 eV)におけるダイレクトスペクトルとShirley型バックグラウンドが示されています.(d)はバックグラウンドを減算したダイレクトスペクトル,および比較のための(e) Cr Kα X線励起Si KLLスペクトルが示されています. Sickafus法で大きなバックグラウンドを除去することなくShirley法でピーク強度を求めることができ,ピーク位置はX線励起のものと比べて問題ないことが分かります.
[1] 吉原一紘,「オージェ電子分光法」(日本表面科学会編)(丸善)4章.
[2] E. N. Sickafus, Rev. Sci. Instrum. 42, 933 (1971), Phys. Rev. B 16, 1436 (1977).
[3] D. A. Shirley, Phys. Rev. 5, 4709 (1972).
[4] K. Watanabe et al., J.Vac. Sci. .Technol. A 41, 043209 (2023).
(ver. 241227)
©Division of Surface Analysis, The Japan Society of Vacuum and Surface Science, All rights reserved.