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電子の非弾性散乱平均自由行程(Inelastic Mean Free Path, IMFP)は実験的に測定できますか?
弾性散乱分光法(Elastic Peak Electron Spectroscopy, EPES)を使って測定することができます.
あるエネルギー
E
で固体中を移動する電子が距離
z
を走行するとき,非弾性散乱を受ける確率は
exp
-
z
/
λ
で表されます.ここで,
λ
は非弾性平均自由行程(IMFP)です.
N
0
個の電子
i
(
i
=
1
,
2
,
3
,
…
,
N
0
) が地点A(電子銃)から出発し,地点B(検出器)には
N
x
個の電子が到達したとします.差分の
N
0
-
N
x
個の電子は弾性散乱や非弾性散乱を受けて試料に吸収されてしまい,地点Bには到達できません.地点Bで観測された電子
N
x
には,エネルギー
E
の弾性散乱電子と非弾性散乱によってエネルギーの一部を失ったエネルギー
E
-
Δ
E
の電子が混在しています.実験的には電子の弾性散乱ピークを測定すれば両者は区別でき,エネルギー
E
の電子の強度を得ることができます.一方,理論的には,地点Bに到達した電子
i
(総数は
N
x
個) は,弾性散乱や非弾性散乱を受けて,それぞれ
s
1
,
s
2
,
…
,
s
N
x
の距離を走って到達したと考えます.すると,エネルギー
E
で地点Bに到達する弾性散乱電子の数
N
は,
N
=
∑
i
=
1
N
x
exp
-
s
i
λ
となります.この考え方で弾性散乱電子分光によりIMFP を測定することができます.すなわち,弾性散乱分光法により,エネルギー
E
の電子を固体試料に
I
p
個入射し(地点A),地点Bで弾性散乱ピークとして計測した電子数を
I
b
とすれば,
I
b
I
p
measured
=
N
N
0
theory
=
1
N
0
∑
i
=
1
N
x
exp
-
s
i
λ
が成り立ちます.しかし,理論計算では電子
i
が検出器に到達するまでに走行した距離
s
i
の情報が必要となります.そこでモンテカルロ法を使い,測定条件下で入射した電子が弾性散乱を受け,検出器に到達するまでに走行した電子の全移動距離
S
に対する個数分布を求め,距離
s
i
の情報の代用とします.この際,非弾性散乱は考慮する必要はありません.この分布を
d
η
/
d
S
で表せば入射電子数
N
0
と検出される弾性散乱電子数の比(強度比)は
N
N
0
=
1
N
0
∫
0
∞
d
η
d
S
exp
-
S
λ
d
S
となります.そこで,IMFP の値を変化させ,
N
/
N
0
を
λ
の関数として検量線を作成し,実測した
I
b
/
I
p
に一致する点からエネルギー
E
におけるIMFP, すなわち
λ
E
を求めることができます.
注:実際の測定では,電流とカウント数の換算や分光器の取り込み角度の補正など,装置関連の補正が必要となります.そこで,IMFP が既知の標準試料を用いて,この補正を行うことが一般的に行われています.詳細は参考文献を御覧ください.
参考文献:S. Tanuma et al., Surf. Interface Anal., 2005; 37: 833 ‒ 845. DOI: 10.1002/sia.2102
著者版:https://doi.org/10.48505/nims.3058(フリーダウンロード可)
(ver. 230313)
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