測定されたカウント数はなぜカウント数の平方根の誤差を持つのですか.

 いま n 個の原子があり,任意の原子1個が,測定時間中に電子を1個放出する確率を p とします.この場合,発生した電子数が ν 個である確率は, n 個の原子の中, ν 個が電子を放出する確率となります.すなわち,成功確率が p の試行を n 回試行して, ν 回成功する確率と見なせますから,二項分布, B n , p ν になります. B n , p ν = n ! ν ! n - ν ! p ν 1 - p n - ν 二項分布の n が大きく, p が小さいときにはポアソン分布, P μ ν になります. lim n , p 0 B n , p ν = e μ ν ν ! P μ ν ここで, μ は, μ = n p で,最も観測される確率の高いカウント数です.
発生した電子数の平均値 ν - は次式から求まり,最も観測される確率の高いカウント数と同じになります. ν - = ν = 0 ν P μ ν = ν = 0 ν e - μ μ ν ν ! = μ e - μ ν = 1 μ ν - 1 ν - 1 ! = μ e - μ e μ = μ これからカウント数の誤差, ν - ν - を計算すると,カウント数の平方根となります[1] σ ν = ν = 0 P μ ν ν - ν - 2 = μ すなわち,観測されるカウント数は μ ± μ と記述できます.電子分光法では測定する原子数に比べて発生する電子数は非常に少ないため,測定される電子のカウント数はポアソン分布に従い,その誤差はカウント数の平方根となります.

[1] J. R. Taylor,”計測における誤差解析入門” p.249(東京化学同人, 2004).

(ver. 230313)