表面分析が対象とするサンプルを準備する際,コンタミ防止のために注意すべき点は?

 分析面には何も触れさせないというのが基本です[1]
 まず,試料および試料ホルダーなど分析チャンバーに導入するものの取り扱いは素手では行わないこと.試料固定用ねじや試料ホルダーなどは,あらかじめ,分析チャンバーに入れておいて,定期的にベーキングしておくことを推奨します.手袋もパウダー付きは使わないこと.汚れのないきれいな手袋を使うこと.試料固定用の金属板やアルミホイルなどの表面が分析面に触れるとAlおよびコンタミ成分が転写されることがあります.感度の良いTOF-SIMSでは,それらが検出されるので注意が必要です.また,環境からの汚染にも気を付けなければなりません.試料は,グローブボックスやデシケータなど制御された環境で保管することが望ましく,ケースや袋などもガスの発生しない材質を選択しなければなりません.
 分析中の汚染もあります.電子線やX線,イオンなどによる試料損傷(破裂など),オイルやグリースなどがガス化し,周囲の試料および試料ホルダーや分析チャンバーを汚染することがあります.次の試料を分析チャンバー内に入れた時,試料ホルダーや分析チャンバー表面からの汚染物質が分析面に付着するなど影響することもあります.真空度が悪化した場合には,チャンバーのベーキングをお勧めします.汚染物そのものを分析する場合は,試料をできるだけ小さく,少量にするなど工夫する必要があります.導電性両面テープ(カーボンテープ)がArスパッタリングされると分析面が汚染されることがあります.これを使う場合は,分析面に触れないように注意して,アルミホイルでカーボンテープが見えないように覆うとArスパッタリングによる汚染を避けることができます.
 その他,詳細は「分析実施者に対する分析試料の前処理と取り付けに関する指針」を記したISO18116[2],これをJIS化したJIS K 0154[3]と「分析依頼者に対する試料の取り扱い,保管と搬送に関する指針」が示されているISO18117[4]を参照し,正しく試料を扱ってください.

[1] 荒木祥和: J. Surf. Anal., 25, 3, 202 (2019).
[2] ISO 18116:2005, 表面化学分析-分析のための試験片の作成及び取付の指針
  Surface chemical analysis -- Guidelines for preparation and mounting of specimens for analysis
  https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+18116%3A2005
[3] JIS K 0154:2017, 表面化学分析―分析試料の準備及び取付けに関する指針
  https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+K+0154%3A2017
[4] ISO 18117:2009, 表面化学分析-分析に先立つ試料の取扱い
  Surface chemical analysis -- Handling of specimens prior to analysis
  https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=ISO+18117%3A2009

(ver. 220602)