スペクトル全体形状がXPSでは右下がり,AESでは右上がりの形状になるのはなぜですか?

 XPSやAESで観測される電子スペクトルの形状が右下がりか,右上がりか,の違いは,スペクトルに現れるバックグラウンドの起源や,分光モードの違いに由来します.XPSスペクトルのバックグラウンドは,X線で励起された光電子やオージェ電子が試料内部で 発生し試料外に放出される過程で,様々な非弾性散乱を経てランダムにエネルギーを失うことで形成されます.このため,光電子やオージェ電子ピークの高結合エネルギー側(低運動エネルギー側)にバックグラウンドが付随して観測されます. 結合エネルギーが高くなるほど,複数のピークに由来するバックグラウンドが階段状に重なって強度が増していくため,XPSスペクトルは右下がりの形状になります.
 一方,AESスペクトルのバックグラウンドは,試料に照射した一次電子や一次電子によって励起されたオージェ電子などが,試料内部での非弾性散乱を経てランダムにエネルギーを失うことで形成されます.通常,XPSではΔE=一定(絶対分解能が一定) モードで測定するのに対し,AESではΔE/E=一定(相対分解能が一定)モードで測定する場合が多く,この場合,エネルギー分解能ΔEは運動エネルギーEに比例して大きくなり,Eが大きいほど計測される電子数が増えるため, AESスペクトルは右上がりの形状を示します.

(ver. 220602)