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Agの1sや2sピークはなぜXPSで観測されないのですか.
XPSでは内殻電子を光電子として外に取り出すために,試料にX線を照射して内殻電子を励起させます.X線のエネルギーを
h
ν
としますと,内殻電子が光電子として放出されるときのエネルギー(
E
p
)は,内殻電子の束縛エネルギーを
E
B
,分光器の仕事関数を
Φ
analyzer
とすると,
E
p
=
h
ν
-
E
B
-
Φ
analyzer
となります. この式から,内殻電子が光電子として飛び出すためには,照射するX線のエネルギーが少なくとも内殻電子の束縛エネルギー以上でなくてはなりません.Ag1s電子の束縛エネルギーは25,514 eV,2s電子の束縛エネルギーは3,806 eVです
[1]
.実験室で通常使用されるXPS装置は,AlまたはMgを励起して得られる特性X線を用いますが,Alの特性X線のエネルギーは1486.6 eV,Mgの特性X線のエネルギーは1253.6 eVです.これらの励起線源のエネルギーはAg1s電子や2s電子の束縛エネルギーよりも小さいので励起することは出来ず,観測されません.しかし,放射光や,CrのKα線(5414.7 eV)を励起源とする装置が使われるようになってきているので,深い内殻準位のエネルギー分析も可能となってきています.ただし,Ag1s電子の束縛エネルギーは25,514 eVと非常に大きいので,現状では,放射光を用いても観測することは困難です.
[1] 日本表面科学会編,”X線光電子分光法” p.210(丸善, 1998).
(ver. 231201)
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