なぜXPSの線源はAl Kαが主流なのでしょうか?

 XPSは,隣接原子との化学結合に直接的に関与している最外殻軌道の電子ではなく,内殻軌道の電子を対象とした分析手法です.分析したい元素の内殻軌道電子を励起するためには,その結合エネルギーよりも高いエネルギーを持つX線を照射する必要があります.また,化学状態に関する情報を得る上では,エネルギー分解能が高い方が有利であるため,線幅の狭いX線が望まれます.さらに現在では,分光結晶を利用して単色化したX線の利用が一般化しており,適当な分光結晶が入手しやすいことも望ましい要件のひとつです.
 これらの要件をほどよく満足するのが1486.6 eV のエネルギーを持つAl Kα線であり,商用のXPS装置には単色化されたAl Kα線源が標準的に搭載されています.なお,Al KαとMg Kαの2つのX線を使い分けることができるタイプの非単色化線源(ツインアノード)も利用されており,Al Kα線で励起した時に着目元素の光電子ピークにオージェピークが重なる場合には,Mg Kα線に変えることで光電子ピークのみ運動エネルギーが変化することを利用して重なりを解消することができます.
 当学会のホームページに動画資料として「ビデオ講演:電子分光法による表面分析の基礎」が用意されており, 「X線源」編があるので,そちらも参照ください.

表. 主な特性X線のエネルギーと線幅 [1]
X線 エネルギー (eV) 線幅 (eV)
Mg Kα 1253.6 0.7
Al Kα 1486.6 0.85
Zr Lα 2042.4 1.7
Ti Kα 4510.0 2.0
Cr Kα 5417.0 2.1

[1] D.Briggs, M.P.Seah, 表面分析―基礎と応用―上巻,アグネ承風社, 1990.

(ver. 220602)