走査電子顕微鏡(SEM)で加速電圧を変える理由は何でしょうか

 一次電子と試料の相互作用を変化させ,得たい情報を引き出すためです.
 一般的なSEMの加速電圧範囲では加速電圧が大きいほど,一次電子は試料のより深くまで侵入します.例えばCu試料では加速電圧20 kVでの侵入深さが約1500 nmであるのに対し,5 kVでは約140 nmとなります.したがって,20 kVではより試料内部の,5 kVではより試料表面の情報を反映したSEM像を得ることができます.
試料から放出される二次電子の量(二次電子収率)も加速電圧により変化します.物質ごとに加速電圧に対する二次電子収率の変化は異なるので,物質間で収率の差が大きくなる加速電圧を選択することで,高コントラストな像を得ることができます.また,絶縁性試料観察では,入射する一次電子と放出される二次電子の量がバランスする加速電圧を選択することで,帯電を抑制した観察が可能となる場合があります.
X線による元素分析を行う場合には,加速電圧により励起できる特性X線や励起効率,さらに分析深さが変化します.着目する元素,妨害元素の有無,試料構造に合わせて最適な加速電圧を検討すると良いでしょう.参考まで以下に入門書[1, 2]を示します.

[1] 新・走査電子顕微鏡, 日本顕微鏡学会関東支部編 共立出版 (2011)
[2] L. Reimer, Scanning electron microscopy, 2nd Edition, Springer, Berlin, Heidelberg (1998)

(ver. 220602)