日本表面真空学会 東北・北海道支部 関東支部 合同セミナー

「量子ビット・量子センサーを実現する量子ナノ材料」

 

今日、情報社会の発展は、トンネル磁気抵抗センサーやハードディスクドライブ(HDD)など、主に磁性物質の革新的な微細化に支えられています。一方で、生成AIの登場により、世界規模で情報処理の量が爆発的に増加しており、これに伴って既存の情報処理に必要な電力や資源の需要が急激に高まっています。このような状況の中で、情報技術の発展と地球環境の保全を両立させるための一つの解決策として、既存の磁気デバイスに代わる「量子デバイス」、例えば量子コンピューターや量子センサーが注目されています。これらの技術は、主に大手IT企業を中心に活発に研究開発が進められていますが、その成否を決定づけるのは、どれだけ安定的で高密度な量子ビットを実現できるかにかかっています。

そのため、微細化技術やナノ計測技術、さらに表面・界面制御が重要な鍵となります。本企画では、これらの研究分野の専門家の方々に、NVダイヤモンド、超伝導、磁性原子、有機分子など、多様な材料を用いた量子スピン研究についてご発表いただき、表面・界面制御学会の皆様にもご関心を持っていただくとともに、新たな量子研究の扉が開かれることを期待しています。

 

日時・場所:202534日(火) 13:0017:30 オンライン開催

 

参加費: 無料

 

プログラム (講師(敬称略)、講演題目、要旨)

13:00-13:05開会挨拶 東北・北海道支部長 島田敏宏(北大)

13:05-13:10企画説明・座長 山田(千葉大)

 

13:10-14:10「量子コンピュータ技術入門:基礎から最先端まで」 川畑史郎(法政大学)

近年、量子エラー訂正技術の急激な進展により、量子コンピュータの社会実装に大きな期待が寄せられている。その一方で、大規模な量子コンピュータを実現するためには、様々な技術的課題を解決する必要がある。本講演においては、量子コンピュータの基礎から最先端ハードウェア、ソフトウェア、周辺技術まで俯瞰的に解説を行う。

 

14:10-14:40「超伝導量子コンピュータの開発と大規模化に向けた課題」 玉手修平(理研)

超伝導量子コンピュータは、シリコンウェハ上の超伝導回路を量子ビットとして用いる量子コンピュータであり、設計・製造自由度の高さから、近年大規模化に向けた研究・開発が加速している。一方で、超伝導量子ビットの性能は回路表面の誘電損失や周囲構造への輻射損失に非常に敏感であり、集積化やパッケージングにおいて様々な課題が残っている。本公演では、理研で開発している超伝導量子コンピュータのチップ設計やスケーラブルなパッケージング・配線構造ついてについて紹介し、大規模化の課題について議論する。

 

14:40-15:10「ダイヤモンド量子センサの研究」 水落憲和(京大)(30分)

ダイヤモンド中のNV中心を用いた量子センサは、高感度、高空間分解能を有すること

から注目される。感度に関しては、計測するNV中心の数を増やすほど感度が上がり、

室温で超伝導量子干渉計並みの高感度を実現することが期待されている。空間分解能

ではナノレベルも実現できる。講演では、NV中心を用いた量子センサの基礎と応用に

ついて紹介する。また、NV中心の光学特性、スピン特性や、計測手法等についても紹

介する。

 

15:10-15:25 休憩

 

15:25-15:55「液体ヘリウムおよび固体ネオン表面に浮かぶ電子」 川上恵里加(理研)

液体ヘリウムおよび固体ネオン表面の真空中に浮かぶ電子は、その物理系の純粋さから量子ビットとしての利用が期待されている。本講演では、液体ヘリウム表面上の電子のリュードベリ状態LC共振器用いて測定する実験と、固体ネオン表面上の電子超伝導共振器用いて測定する実験について報告する。また、量子ビットの集積化のために必要となる低温で動作するマイクロ波発振器の開発についても紹介する。

 

15:55-16:25走査ダイヤモンドNVプローブ顕微鏡」 安東秀(北陸先端大)

走査ダイヤモンドNV中心プローブ顕微鏡は局所、磁場、温度、電場イメージングが可能なことから注目を集めている。一方で、さらなる高感度化、高分解能化に向けてダイヤモンドの純度やプローブ先端の表面処理の重要性が認識されている。講演では、本技術でイメージング可能な試料、プローブの作製法、高性能化への課題等について紹介する。

 

16:25-16:55「鉄系超伝導体における渦糸芯束縛状態のスピン偏極分光」町田理(理研)

トポロジカル表面状態を有する鉄系超伝導体の表面ではカイラルp-波のトポロジカル超伝導が発現し,その渦糸芯にトポロジカル量子計算の基本要素であるマヨラナ準粒子が現れると期待されている.本講演では,マヨラナ準粒子の特徴の一つであるマヨラナ束縛状態のスピン偏極性を捉えることを目指した,超伝導探針による高精度スピン偏極トンネル分光を紹介し,マヨラナ束縛状態のスピン偏極分光の現状を報告する.

 

16:55-17:25「分子スピンとトンネル電流を用いたキュービット構築」米田忠弘(東北大)

量子情報処理の物理的単位、キュービットとしてスピンを利用したプロセスが可能なことは20年以上前に実証されているが、その成功の基礎となったのは電子スピン共鳴(ESR)・核磁気共鳴(NMR)のエネルギー分解能や、同時に用いられた磁場・RFによるスピン状態の制御が正確であったことである。しかしながらESR/NMRの微小化が行われない限り将来的にこれらが量子コンピューターのキュービットの主役となることは困難と考えられる。ここではその基礎技術として、トンネル顕微鏡を用いた原子レベルの空間分解能を持ったESR/NMR技術の最近の発展について紹介する。

 

17:25-17:30閉会挨拶 関東支部長 近藤寛(慶応大)

 

参加方法: 以下のURLより参加登録をして頂き、ZoomURLを入手してください。

https://forms.office.com/r/cFnRZnZYvU

 

担当者:

山田豊和 (千葉大学)

島田敏宏 (北海道大学)

羽田野剛司 (日本大学)

廣瀬靖 (東京都立大学) (問い合わせ先: hirose@tmu.ac.jp)

林智広 (東京科学大学) (問い合わせ先: th@mct.isct.ac.jp)